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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 


「さあ、課長戦場に着きました。新幹線内でお仕事についての打ち合わせをしていませんでしたけど、なんとかなるということで、降りましょう。はい、コートありがとうございました」

 営業モード発動。

 停止した新幹線内、課長と顔を合せないように、忙しいふりをしててきぱきと降りる準備をする。席の配置上、通路に先に立つのは課長であたしはその後ろとなる。

 コートを片手にかけた課長の広い背中を見ながら、おかしなことを口走ったことについてうまく切り抜けれそうだと、ほっと胸を撫で下ろした時、優雅な笑みを浮かべながら課長があたしに振り返った。

「これからもっと私を触りたいということですか?」

「……っ」

 聞いていたのかよ!

「ね、寝ぼけていたんです。それはほんの冗談です」

「あなたから手を握ってきたのは?」

「……さあ? なんのことでしょう」

「耳まで真っ赤ですけど」

「暑いんです!」

「くく……」

 課長は悪戯っ子のような表情をして笑うと、形いい唇をあたしの耳元にもってきて、小さく囁いてくる。

「手を握る程度でそんなに照れるなんて、可愛いですね」

「……」

 無視だ、無視!


「俺達、もっと凄いことしてるのに」

「――っ!!!!!」

 あたしはつい最近の、媚薬が回った身体を、課長に宥めて貰ったことを思い出してしまった。されただけではない、課長にしたことも。

「思い出しました?」

「思い出しません!!」

「……いじっぱり。素直に触りたいとおねだりしてくれれば、触らせてあげるのに。どこだって。……ねぇ、本当に記憶ないんですか?」

 ああ、もう本当に課長のペースだ。

「~~っ、こんなところでやめて下さいよっ!!」

 あたしは真っ赤な顔で、課長の腕をぽかぽかと手を叩いて抗議をすると、課長は弾んだ声を出して笑っている。

「私のことで、頭がいっぱいになりました?」

「おかげさまで!! もう十分ですから!!」
 
 ぷりぷりしながらも、寝ても覚めても課長に緊張を解いて貰っていることは自覚しているために、強く言えないまま動き出した人の波に乗って、新幹線を降り立った。
 
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