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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「お泊まりですか? それとも日帰り温泉をご利用ですか?」
若草色の着物に紺色の羽織という、やや地味な服装にしては、にこにこと笑う女従業員は、目鼻立ちが整った顔をして品がにじみ出ている。右の口元にホクロがあり、なんとも艶めかしい。
年は若くはないが、五十代には至っていない気がする。
「本日午後1時で、矢島司社長と面会のお約束をしております、シークレットムーンの鹿沼と、上司の香月です。うちの月代からご連絡してあると思うんですが」
ぺこりと頭を下げると、その女性は驚いた顔をして周りを見た。つられてあたしも見るが、誰もいない。
「すみません。ちょっとお待ち頂いてよろしいですか? 社長に内線を入れますので」
頷くとその従業員は、草履をパタパタと音をたてて、フロントと思われるところに走っていった。
「ここのホテルは閑散としすぎてますけど、従業員がいないんでしょうかね。プレオープン?」
課長が神妙な顔をして言う。
「開業は数年前のはずです。ネットでは高級ホテルとして紹介されてましたし。まあ全国のやじまホテル自体、高級らしいですが。あ、浴衣姿のお客様は見えますね、奥に」
通路は左右に広がっている。その右の奥で利用客らしき男性が横切るのが見えた。
「それにしては、従業人が足りない。しかも内線を使うのに、どうしてフロントまで行かないと駄目なんですかね」
課長はそこがひっかかるようだが、ホテル事情に口出しするようなものでもないと思うけれど。

