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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 しばらくして従業員が帰ってくる。

「お待たせしました、社長室へご案内致します。浴室の奥なので、ちょっと歩くことになりますが……」

「構いません。よろしくお願いします」

 従業員を先頭に、左の通路を通って、ワイン色の絨毯を踏みつけて課長と歩いていく。天井には、宿泊棟と思われるすみれとかゆりとか花の名前と、大浴場と案内板が光っている。

「右側は日帰りのお客様の休憩室などが広がっています。ただ大浴場はどちらも共通となりますけれど」

 左側一面に広がる大きな硝子窓からは壮大な日本庭園が見え、趣がある風景が広がる。

「素晴らしいホテルですね。ため息がでちゃいます」

 あたしが声を漏らすと、従業員は振り向いてにこりと笑った。

「ありがとうございます。お客様は、当ホテルのご利用はありますか? やじまチェーンは全国に広がっておりますが」

「それがないんです。高級ホテルということに宿泊したことがなくて。庶民には憧れなんで、なにかの記念日にでも利用させて頂こうと思います」

「はい、その時は是非。お客様はどちらから?」

「東京です」

「東京……というと、一番近いのは、神奈川県の逗子近くの葉山にも、一件温泉宿がございます」

「え、そんなところに温泉があるんですか!」

「ふふ、ございます。閑静なところに建ち、そこには別邸として一棟貸し切ることも出来ます。隠れ宿として、著名な方々がお忍びでご利用される客が多いと聞いています。勿論別邸はお値段が張りますが」

「はああ……。いいなあ、そういうところ行ってみたいです」

「お肌つるつるになりますよ、やじまの温泉は。源泉使用しているので。もちろんここの温泉も、女性に大人気です」

「今度、仕事がない時にプライベートで来ます。ご親切に色々教えて下さり、ありがとうございます」

 課長を見上げると、課長はなにか考え込んでいるようだ。
 
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