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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 社長室に行くまでに利用客と、他の女性従業員達にすれ違った。着物を着ながら清掃していたり、布団を台車で運んでいたりと大変そうだ。

 従業員はちゃんと居るらしい。必死な形相で、声をかけるのもはばかれるような状態だ。

「こちらの従業員は、案内係よりも宿泊客の接待が多いんですか?」

 不意に課長は聞いた。

「元々は皆案内も兼ねているんですけどね、一度中に入ってしまえば、やることが多いようで中々玄関に戻ってくれなくて」

「広いですしね」

 あたしが言うと、従業員は苦笑した。

「そうなんです。お客様にゆったりして欲しいのですが、どんなエキスパートな従業員を雇用しても、やはり移動に関しては時間は縮まりませんから。走ればお客様が気分を害してしまうでしょう」

「案内役がいなくなったら、内線で?」

 課長が尋ねる。

「基本は内線です。ですが広いホテル内、内線を置きすぎると景観を損ねるので、内線の場所にひとがいないようなら、アナウンスかけたりして、呼び出してますわ」

 また課長は考え込んでいる。

 それでもネットには、利用客の従業員への苦情はなにひとつなかった。やはり接客のプロ、そこらへんは悟られずにうまくやっているのだろう。

 日帰りで大浴場を利用する客には、有料で個室を、無料で大広間を貸し出ししているらしい。宿泊客には、共通スペースとしてテレビやマッサージチェアやフリードリンクがあり、今日は平日だというのに客は結構入って賑わいを見せている。

「こちらへ……」

 そこを通り越してややしばらく歩き、ようやく社長室らしきものが見えてきたようだ。

 ノックをして、従業員は声をかける。

「お客様をご案内してきました」

 ドアを開くと、そこは応接間になっており、黒い革張りのソファの奥の机から、従業員と同じ羽織を着た……厳めしい顔をしたでっぷりと太った男性が立ち上がり、こちらに向かってくる。

 ブルドックみたいで怖っ!!

 課長がいかにイケメンかが身に染みてわかる。

 ……などと顔に出さぬようにして、営業モード発動!!
 
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