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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

バッグから名刺入れを取り出して、一枚を手にした。
「初めまして。私……」
「ああ、わかってる。名刺はいらん、月代さんの部下だろ。こちらの連絡先も月代さんに聞けばいい。月代さんもこんなぺーぺーを寄越して」
じろりと名刺を一瞥して、あたしの主任の肩書きが気に入らなかったのか、名刺を出しているのに受け取ってもらえない。
飛び込み営業でもあるまいし、こうした扱いをされるとは予想していなかった。
え、受け取って貰えなかったら、どうするんだっけ。
パニックになったあたしの横にすっと課長が出た。
「私鹿沼の上司にあたり、シークレットムーンWEB部課長の香月と申します。鹿沼と共に、月代の代理として参りました」
微笑みながら名刺を出すと、矢島社長は胡乱げな目で課長を見つめたが、差し出された課長の名刺をじっくりと見て、少し考え込む素振りを見せると、課長の名刺だけ受け取った。
課長のだけ!
だが受け取ったら、彼はひとつの名前を呼んだ。
「おい!」
すると、どうやらこの部屋の仕切り戸の向こう側にいたらしい、ここまで案内してくれた女従業員が、お茶をお盆に乗せてやってきた。
「これ、やる」
「承知しました」
従業員は名刺を手に取りお盆に乗せると、社長に促されてソファに座ったあたし達にお茶を出してくれた。
社会人の心得ひとつ。
名刺を頂いたら、名刺入れの上か自分の近くの机の上に、貰った名刺を置きましょう。目の前で部下に渡してしまうのは、論外です。
あたし達は、屈辱的にも先方の名刺を貰えないらしい。
しかも、向かい側に座った社長は、話し出すあたしを見ない。あの従業員にパイプ椅子を持ってこさせて立ち会わせ、ふんぞり返ったまま課長を見ている。
確かにあたしは主任とは名ばかりのペーペーで、課長のような華々しい学歴も職歴もありませんけれど!
だけど、そんなところで判断しないでよ!

