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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

「社長、こちらを……」

「ああ、君。温泉入ってきたら? 喋らなくてもいいから、うるさい。本当になんで月代さんも女なんか寄越すかな」

 女で悪いか!!

 差しだそうとしていた紙を持つ手が震える。

 こんな奴に会うためにここまで時間をかけてきて、しかも会社の命運がかかっているなんて。会社の危機でないならば、ここでこの机を思い切りひっくり返したい。

 だけど、女だからとただそれだけで見くびられている社会は、確かにあることはあたしもわかっている。

 あたしは衣里のように話術はないけれど、仮面くらいかぶれる。

「すみません。遠路はるばるやってきて、ようやく社長にお会いできたので興奮して、声高になってしまいました。もっと静かにお話しますね」

 落ち着け、落ち着け。

 こんなことでへこたれるな。

 笑え、笑え。

 嫌がらせなんてへっちゃらだと。

「ああ、じゃあ手早く話してくれないかな。こっちも忙しいのに、月代さんが話を聞いてくれというから聞いているんだ。なにかをさせたいのなら、月代さんに来て貰って。社長じゃないと話にならない」

 だけど、あたしだって人間だ。

 悪意をぶつけられても平気じゃない。

「社長は、入院しております」

 できるならここから飛び出したい。

 それでも社長があたしを任命してくれて、皆もあたしを応援してくれるのなら、あたしは私情で投げ出すわけにはいかないのだ。

「はは。あんな元気なひとが入院? 仮病かい」

「元気なら社長が自ら来ます。来れないから、あたしと課長が来ました。どうすればお話を聞いて下さるのでしょう」

「そうだな、女なら裸になれ。上から下まで真っ裸になるのなら、話を聞いて考えてやろうじゃないか。裸での打ち合わせなら」

 ――っ!!!

「それとも課長さん、あんたが私に土下座して私のサンダルでも舐めてみるか? しばらく洗ってないサンダルだけど、いろんな菌が湧いて美味いかもしれないぞ?」
 
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