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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

「課長……、社長って……」

「この女性が社長です。名刺を受けることを拒んだこの男性は、矢島社長の内線で呼ばれて、社長のふりをしていただけのこと。部下でしょう」

「へ?」

 ふたりは黙って、課長を見ている。

「私は部下が女であることを道具にしたくない」

 きっぱりと課長は言い切った。

「あなたが彼女にそれを望んでいたとしても、私がさせない。それくらいなら、私がこの方のサンダルを舐めます」

 課長は立ち上がり、ブルドッグの前に膝をついた。

「やめて下さい、課長!! あたし裸くらい……」

「安売りするな! あなたは実力で主任になったはずだ!!」

 課長の爆ぜるような怒声にびくっとした。

「課長だってそうでしょうが!! 課長!!」

 課長は土下座をして、頭を下げたまま……言った。

「ここのホテルの従業員は皆女性ばかりだった。女性にチャンスを与えているあなたなら、部下達が見知らぬ男から、セクハラ・パワハラ……をさせられて黙っているんですか? 私は嫌です。それくらいなら、私がした方がましだ」

 そして課長はブルドッグの足を手に――。

「課長、課長――っ」


「ここまでよ!! あはははははは」


 女従業員は突然笑い出した。

「いや、ごめんなさい。まさかこんな早く見破られるとは思わなかったので。もういいわ、課長さん。あなたはそんなことをする必要はない。だから席に戻って。戻らないとそれこそ打ち合わせしないわよ」

「……わかりました」

「鹿沼さん……でしたっけ? あなたも座って」


 あたしは戻ってきた課長を抱きしめたくなった。

 土下座でも、課長にさせたくなかった。あたしひとりですむのなら、裸になっても構わなかった。

 あたしを助けるために、きっと――。

「ねぇ、課長さん。従業員が女性ばかりだったから、私が社長だと確信したんですか?」

 やっぱり、このひとが女社長だったのか。

 あたしひとりなら、見抜くことが出来なかった。
 
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