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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「いえ。月代が社長の情報について一切口を漏らさず、しかし鹿沼を指名したのが、私にはひっかかっていました。営業ではなく、彼女を寄越す意味があるのだと。それとホテルのことを話していたあなたは」
――お客様にゆったりして欲しいのですが、どんなエキスパートな従業員を雇用しても、やはり移動に関しては時間がかかりますからね。
「雇用したと、雇用側からの意見を述べました。そこで、もしかして社長名の矢島司というお名前は、女性のものではないのかと思いまして。勝手に名前から男性だと判断していただけではないかと」
「そう。こちらの女性の方との世間話を、課長さんは聞いていたのね。そんな些細なことで……あははは、愉快だわ。いいわ、沼田、下がって」
「い、いいんですか?」
「そして謝罪しなさい。私はそんなことを言えと指示していないわよ。私はただ怒らせろと言っただけ。性別軽視は私が嫌うところよ」
すると、今まで社長だと思っていたブルドッグは深々と頭を下げて、あたしに謝ったのだ。
「申し訳ありませんでした。私は経理担当の沼田と申します。どうかお許し下さい」
「は、はあ……」
「私からも部下の失礼な態度を謝ります。試すつもりだったとはいえ、ごめんなさい。怖かったでしょう」
「そ、そんな……」
「そして課長さん。香月さんだったかしら。あなたに土下座させてしまったこと、本当にごめんなさい」
「いいんです。わかって下さればそれで。社長、顔を上げて下さい」
課長の言葉で、頭を垂らした女社長は、顔を上げて言う。
「私は、男に負けたくない一心でここまでやって来たわ。だからね、泣き出さず狼狽えず逃げ出さず、困難に挑もうとする女性が好き。泣いて逃げ出せば庇護して貰えるとの女のイメージを地で行く女性は大嫌い。今の子なんて特に、働く根性もなくて雇用しても疲れるからと辞めていく。結婚の腰掛けみたいに思って、"やじま"を愛してくれないの」
あたしはふと、千絵ちゃんがシークレットムーンに居た時、そういうものだと言っていたことを思い出した。スポ根のように会社を愛することは流行らないと。
ジェネレーションギャップもあるのだろうか。否、あたしはいつの年代にも会社を愛する心は尊重されると思うのだ。

