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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

もうなんでこのひとは、心臓に悪いんだろう。
どうして笑う顔が、こんなに愛おしいと思えるのだろう。
いつもすました顔をしているくせに、なんであたしだけ……。
――お互いが大切でたまらない……そうんな風に見えたから。
「……それと、ありがとうございました、課長。課長の機転のおかげで、仕事を取れました」
「私は、なにもしてませんよ。社長に気に入られたのは、あなたの人柄と努力です。私はそれに乗っかっただけ」
「違います、課長がいなかったら……」
「じゃあ、必要として下さい。ずっと」
課長は優しく微笑んだ。
……やっばいなあ、心臓がドキドキしてくる。
こうやって絶対自分を誇らない課長が、こうやって優しい顔を見せてくる度に、あたしは――。
バリバリバリ。
なにかがなにかに叩きつけるような、そんな凶悪な音を耳にして、あたしと課長は、日本庭園が見える窓の前で呆然とした。
天気が荒れているのだ。
凄まじい豪雨が硝子窓に叩きつけ、木々は真横に靡き、真っ暗闇の中雷が光って、どどーんと落ちた。雷が苦手なあたしは、思わず課長に抱きつくようにしがみついた。
天気が悪いことはわかっていた。山の天気も移ろうものだということもわかっていた。だけどここまでになるとは、予想していなかった。
ピカッ。
これは台風が上陸した時のようだ。
どどーん。
「ひっ」
窓が壊さんばかりの雨。
怖い怖い、雷さま嫌い!
「……新幹線、動いているかな」
「へ?」
課長はスマホを取り出してニュースを見た。
「新幹線、やはり止まっています。電線が落ち、人身事故も起きたようで、今のところ復旧の見込みはないらしい」
ピカッ。
「じゃ、じゃあどうやって帰るんですか! タクシーで帰れる距離じゃないですよ!? タクシーも雷怖いし!」
課長はため息をついて、窓の外を眺めた。
どどーん。
「ここにいましょう。今夜は帰るのは無理だ」
「え?」
ピカッ。
顔を傾けてあたしを見たその顔が、雷光に輝く。
「ここに泊まりましょう」
どどーん。
あたしの心の中でも轟音が鳴った。

