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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 ***


 肌がつるつるになる重曹泉で両手両足を伸ばす。

「ふは~、最近忙しかったから生き返る~」


 浴槽が11もある大浴場には、硫黄の匂いが立ちこめている。

 岩を模した黒いタイルの床は、ところどころがぼこぼことなっていて、歩くだけで足の裏の土踏まずが刺激されて、健康にいいそうだ。

 ……綺麗になりたいと思う。

 課長が触っても気持ちいいと思える肌に。

 なんて――。

「違うわよ、あたしそんなキャラじゃないんだから! 綺麗に痩せたらいいなって思ってるだけよ!」

 いけない想像をしてしまうあたしは、もう何度目か、洗い場で身体を隅から隅までよく洗って美肌の温泉に入る。化粧も落とした。

 ちょっと低温度のジャクジー風呂に潜って全身マッサージ……と思いきや、かなり水流が強くて溺れるかと思った。

 腰だけではなく、太股とかお腹、二の腕にくるように身体をずらす。

 うん、これはなかなか……。

 半分眠りかけて、ずるっと滑ってしまうと、またもや水流に揉まれて溺れそうになる。思い切り水流に遊ばれているの図。

 社長、あたしやっぱりカワウソじゃないです!!

 サウナに入ってテレビを見ながら、だらだら汗をかいて……水風呂は冷たくて嫌いだから、やはりまたあのジャクジー風呂と行ったり来たり。

「はぁはぁ、これで痩せたはず……」

 体重計で測ったら、ちょっとは体重が落ちて、喜んで出ることにした。

 更衣室は大きく、化粧が出来る洗面台も横一列ずらりと並ぶ。

 そこには売店で販売されているらしい、高級化粧品が置かれてあり、ちょっと気になった化粧水と美容液をつけてみたが、大人になりきれていない顔立ちはそのままだ。

 結構あたしはこれがコンプレックスである。衣里のような切れ長の目でもないし、素の杏奈のようなぱっちりと大きい目でもない。美人顔ではないから、カワウソだのカバだの言われる。

 目をぱっちりと見せ、小顔にさせるために、雑誌でお勉強をして化粧でそれらしくなってはきたけれど、化粧をとった顔はいまだ幼い。
 
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