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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


「あのですね、襲うもなにも」

「"また"君からか!」

「コホン。あの、人聞きの悪いことを」

「恋人がいて、まだそんなことをしているのか!? なんて女なんだ!」

 腰を壁に打ち付けたまま、木島くんはあたしと課長とを、驚いた表情で交互に見ているのがわかる。

「あの、だからですね」

「ここは会社だぞ!? 会社で何人にそんなことをしてた!? もしかしてあいつと……」


 あたしは机を手でばんと叩いた。


「あいつが誰だかわかりませんけど、香月課長の勘違いです! なんであたしが神聖な会社でそんなことをしなきゃならないんですか! 木島くん!」

「へ、へぇ」

 おかしな声が返った。

「真実を!」

「へ、へぇ。主任が自殺しようとしたのを、止めて……」

「自殺なんてしようとしてないから!」

「いや、主任が落ち込んで机に頭ぶつけ始めたんで、止めたっす」

「そうそう」

 あたしと木島くんの真剣な視線を浴びた課長はなにか言いたそうだったが、眉間に皺を寄せながらゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと伸ばした手で拳を作り、壁に向けて……。


 ドガッ!


 ふおぉぉ、壁が引っ込んじゃったよ。


「さあ、打ち合わせ始めましょう。木島くん、始めて」


 それまで激高して理不尽な責めをしたことになにひとつ謝罪なく、会社の壁を壊して威嚇しておきながら、何でもなかったかのようなあの冷たい笑みをあたし達に向け、慇懃な物言いに戻して椅子に座った。

 ひとつだけわかるのは、やはり彼は9年前を怒っている。

 あたしは壁の陥没を見て、肩を竦めさせた。


 怖っ!


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