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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 
 不愉快そうな表情を顔に浮かべる彼は、眼鏡の奥の目をさらに不機嫌そうに細めて男に言った。

「……彼女は俺の連れだ。痛い目に遭わされたくないなら、去れ」

「いぃぃぃぃぃ!? わかりました、わかり……ひぇぇぇぇ!」

 十分痛い思いをしたと思うけど、哀れ男がいなくなると、今度は女があたし達の元に寄ってくる。

「きゃあああ、すごぉぉぉい」

「格好いい!! ねぇねぇ名前教えて下さい」

「夕食一緒に食べませんかあ?」

 あたしと同じ浴衣を着ていながら、薄化粧をした彼女達は美人だ。しかもちょっとだけ襟を開けて、胸の谷間が深いことを見せている、あざとい集団だ。

 ……そりゃあモテるでしょうね、課長は。

 長身でほどよく肩幅があり、モデルのように手足は長い。

 細いようでいて、着やせするタイプだから、こうしたすらっと見える浴衣姿での立ち姿は、とてもサマになる。着物姿で、茶道や華道をしていても違和感はなさそうに思える。

 さらに言えば、お顔が極上で上品な顔立ちだ。

 その上に、このしっとりとした濡れ髪と、そこから見える涼やかな切れ長の目とは対照的に、首から襟元に続くうっすらと紅潮した肌が、なんと艶めかしいことか。

 食べて欲しいと言っているような極上イケメンが歩いていれば、食らい尽くしたいだろう肉食女子の気持ちもよくわかる。

 だが課長は、彼女達に愛想をすることなく、彼女達を壁のようにして、あたしの手を握って歩き出した。

「あ、妹さんですかあ?」

「妹さぁん、一緒に遊ばない?」

 まあ、そうだろうな。崩れた化粧も乗っていないあたしの素顔なら。だけどこうも早く課長に見つかるとは。

 課長は肯定も否定もせず、愛想笑いひとつなく黙々とあたしを連れて歩く。まるで彼女達の声など聞こえていないようだ。

 これが結城なら、困った顔をしながら女の子達も気分悪くならないようにと、話しかけられたら応対するのだけれど、課長はまるっきり無視の鉄仮面姿。

 やがて人の波を振り切るようにして進んできたのは、宿泊棟へと続く通路で、自販機と長椅子が置いてあるひっそりとした場所だ。
 
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