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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 


「生まれつき?」


 頭上に降り注ぐ静かな声に、あたしは答えた。


「違う。高校三年の時に突然……。その時は満月のせいだってわからなくて……当時付き合っていた彼氏に罵られてっ」

――近寄るな、この淫乱っ!! 気持ち悪いんだよ!

「気づいたら、みんなが知っててっ、みんながあたしを……っ」

 込み上げてくるどす黒いものがあたしの許容を超えて、怖くて怖くてたまらない。彼はなにも言わずに、あたしを抱きしめたまま静かに……ゆりかごのように身体を揺らした。

 大丈夫だよ、落ち着いてと言っているように。

「じゃあ、あなたが実家に帰っていないのは……」 

「うん。N県は、嫌な思い出……ばかりが多いから、あたしは、故郷を捨てて、東京に出てきた。家に戻りたくなくて……、結城の力でムーンにねじ込んで貰った……。ムーンは、あたしの……故郷なの」

 あたしを抱きしめている彼は今、どんな表情をしているのだろう。

「隣の駅にある精神科にも行ったの。だけど廃院になって……東京で、薬だけ貰ってる。その先生が紹介してくれた、クリニックで」

 カタカタ、カタカタ。

 彼の手が、震えるあたしの手をぎゅっと強く握りしめた。

 少しだけ……落ち着いた。

「診断はなんと?」

「満月症候群って言われて……」

――満月と男。突然発症したのなら、なにか心理的要因があるはずです。

「心理的要因……。なにかあるの?」

「なにもない。発作の前に頭痛とか人の声がするのが怪しいと言われたけど、よくわからない」

「……フラッシュバック?」

――なにかフラッシュバック的に見える映像はないですか?

「よくわからない……。その時は興奮状態になっているから……」

「結城さんは……知っているんだ、そのことを」

「一度……満月の時、複数の男達とホテルに入ったところを駆けつけて助け出してくれて……、それ以来、あたしは結城に頼っているの。結城にあたしの性欲を鎮めて貰っている。あたしが結城を必要としているから、だから結城はあたしから離れられない……」

「……俺の歓迎会の時も、確か満月だった。俺は……満月を見ながら、あなたの家に居たから」

 切ない声に、申し訳なくなってくる。
 
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