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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「……っ、だけどっ、あたし満月の時は本当にっ」
その優しさを裏切りたくないあたしは、彼の言葉を拒んでしまう。
「陽菜」
あたしの両側の頬が、彼の両手に挟まれた。
固定されて逃れきれないあたしに、彼はふっと微笑んだ。
「あなたが抱えてきた過去は、俺が想像している以上に凄惨だったんだろうと思う。俺があなたにかけられる言葉があるとすれば……」
悲痛な瞳が向けられる。
「話してくれてありがとう。今まで生きていてくれてありがとう。俺に出会ってくれてありがとう」
「……っ!!!」
ぶわりと涙が零れた。
「俺は結城さんのように、あなたの苦痛を取り除いてあげられた過去はないけれど、未来はあげられる」
「……しゅ、う……っ」
「それにあなたが、俺に満月の姿を嫌われたくないと本気で思っているのなら、それは今更だと思わないか?」
「え?」
「俺は満月のあなたを既に知っている」
「……っ」
そう、だ。朱羽とは、満月から始まった。わかっていたのに、その意味を理解していなかった。
「俺に見せたくないという時のあなたを、可愛いと思って俺は抱いたんだ。あなたの誘いに、自分の意志で応じた。俺の意志で、あなたを抱きたいと思った。それは決して、あなたの強制ではないよ。俺の年も関係ない」
満月のあたしを知りながら、今ここに居てくれているんだ――。
ひっくと嗚咽が出る。
「俺は運命とか神は信じない。だけど、満月があなたを苦しめていても、満月があったから、俺はあなたを抱けた。あなたを抱けたから……今、俺はここにいる……。だとしたら、満月も悪くないだろう?」
優しい瞳は、満月のことを話す前も後も変わらなかった。
それが嬉しく感動して……、理解して貰えたことの悦びが、今までぐちゃぐちゃとしていた黒い闇を払拭していく。
朱羽は離れていかないと、そう信じることが出来ればこそ。
ああ、あたしやっぱり――。
「気持ち悪くないの……? 嫌わないの? あたし、多くの男達に……」
あたし、このひとが好きだ。
結城に向かうものとは違う、能動的な熱情に泣きたくなってくる。

