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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
ふと長机を見ると、紙が10枚置かれている。
それを一枚手にとって眺めるあたしの目がキラキラ輝いた。違う9枚も目にした時は、あたしの顔には満面の笑みだったと思う。
机の上に並べられた10枚の紙――、それは、立ちんぼ木島くんが手にしているクリアファイルから取り出された、昨日はピンクのふりふり一種で終わってたはずの、サイトデザイン案だった。
木島くんは、10種類の代案を1日で考えてきたのだ。DTPソフトで作られカラー印刷されたそれと、すべて趣向が違って、そのテーマを紙の右上に汚い字で書いてある。
「こっちのワイン色は"エレガント"、こっちのシンプル系は"クール"、……凄い、木島くん、えらい!」
文句のつけどころのない、そり一枚だけでもかなりの集客力を呼びそうなデザイン。それがピンクのふりふり入れたら、11種類も木島くんは考えてきたのだ。
これなら顧客も真剣に迷うに違いない。
あたしは興奮して木島くんの背中をばんばん叩いた。
「すごく木島くんがかっこよく見える!」
「えへへ…、背中痛いっす」
「えらい、えらい!!」
バンバンバン!!
「よし、じゃあこれをあたし、仕事とってきた世良くんと一緒に、あさってちゃんと先方に見せて選んで貰うからね!」
そう、あたしの仕事はなにも知らない顧客によっては、営業と一緒に赴いて、サイトの進捗状況を説明をすることもある。特に世良くんはまだ新人だから、あたしがサポートしながら、仕事を覚えて貰っている状況だ。
結城や衣里がとった仕事なら、それぞれの知識で客に説明できるが、営業の全員がそんなわけでもないし、ふたりのが忙しい時はあたし一人で代行することもある。ただ営業のように新規開拓や宣伝をしないだけだ。
紙を手にして、営業に行こうとしたあたしを止めたのは、年下上司。
「主任のやり方では効率が悪いので、改革します」
眼鏡のレンズをキラリと光らせて、そんなことを言った。