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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

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「あらあら、お揃いのしわしわの浴衣ですっきりされたお顔とすっきりされていないお顔。なにがあったのかしら~」
丁度夕食の膳の支度を終えたばかりらしい矢島社長が、意味ありげにうふふと笑った。
それを知らないふりをして笑って誤魔化すあたしは……、展望台室でのことを思い出す。
あの後……、朱羽への想いが溢れて、最後まで抱いて欲しいとせがんだけれど、困った顔をしながら朱羽は首を縦には振らなかった。
――ここで約束を破ったら、あなたはいずれ俺を信用出来なくなる。それだけは嫌だ。
――信用を得るのは大変だけれど、失うのは一瞬だから。
切羽詰まった顔をしているくせに。
熱を帯びた目をしているくせに。
貫き通そうとする頑なな意志が、余計に愛おしく思えた。
だけど潤みきっているあたしのと、猛っている彼のままでは帰れなくて、どちらからともなく一時休止していた……陰部同士を摺り合わせて愛し合おうとしたその時。
きゅぅぅぅぅぅ~。
断続的に鳴り響くあたしの腹の虫と、確実にこちらに向かっている複数の足音と話し声に、それどころじゃなくなってしまった。
間抜けにも焦りながら放った下着を身につけ、はだけた浴衣をきちんと直して、何食わぬ顔で朱羽と外に出れば、家族連れが笑いながら中に入ってくる。
間一髪――。
売店でショーツを買う羽目になったが(しかも朱羽のお金で)、笑う朱羽を睨み付け、トイレではいて部屋に戻るなり、矢島社長に言われたのだ。
――あらあら、お揃いのしわしわの浴衣ですっきりされたお顔とすっきりされていないお顔。なにがあったのかしら~
そりゃああたしは、秘密を話せてすっきりしたお顔で、朱羽は中途半端で終わってすっきりしないお顔でしょうけれど。
だけど顔のことを言われてはっとして、あたしはそそくさと最低限の……、今風に言い換えればナチュラルメイクをしたのだ。
いくら何でもすっぴんは、これからお世話になる先の社長に失礼だ。
「はい、ビールをどうぞ」
矢島社長が、瓶ビールを注いでくれた。
食事は海の幸山の幸。お魚やキノコがこんなに美味しいなんて!
「N県の特産品です。お口にあってよかったわ」
「……特産品?」
まるで思い出せない。

