この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

「社長は、N県全域をご存知ですか?」
「私はホテルのために地図を見た程度だけれど……」
あたしはひとつの地名を言った。
「実はあたしの実家がそこにあるんですけど、N県が様変わりしてしまって、どこにあるのかよくわからないんです」
矢島社長は考え込んで言う。
「ちょっとわからないわね。合併や改名、区画整理でもされているのかしら」
「そうですか。だったらネットで調べてみます」
「お力になれなくてごめんなさいね。ではごゆっくり」
社長は立ち上がり出て行こうとしたが、ふと足を止めて踵を返すと、ビールを飲んでいたあたし達の横を擦り抜けて背後に回り、その場で屈んで……今まで開けたことのなかった突き当たりの襖を開けた。
そこには――。
「言うのを忘れておりました。お布団のお支度は出来ていますので」
隙間なく隣同士で並べられた布団が二組。
しかもオレンジ色の常夜灯がやけに艶っぽい空気を漂わす。
「「……」」
あたし達は言葉を失った。
「それと、ひと箱……置かせて頂きました。どうぞ思う存分。なくなったらお電話下さい」
「「ぶっ」」
あたし達は同時に、吹き出した。
そんなあたし達を見て、愉快そうにコロコロと笑う社長は、
「こちらの階の奥にある"久遠の湯"は行かれましたか?」
「いいえ」
まだダメージが酷いらしい真っ赤な朱羽に代わり、あたしが首を横に振ると、社長は言った。
「午後十時に清掃が入り、綺麗なお湯になるのでよろしければいかがですか? 今日は嵐なので露天はしめてますが、想い人と永遠に結ばれると評判の湯なんですよ。おふたりで是非。綺麗な浴衣も用意しておきますので」
朱羽が咳き込んでいる。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈……げほっげほっ」
「そんな慌てられなくてもいいのに。おおっと、長居してしまいました。邪魔者は、退散……っと」
袖を口元に置き、嬉しそうに社長は出て行く。
「十時にお風呂入って下さいね。その間にお膳をお片付けにきますので、どうかまだ始めないで下さいね」
「始めるって……げほっ、げほっ」
「課長!」

