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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

「……あなたは、俺をどうしたいのかな」

「?」

「俺の方がお仕置きされてるみたいじゃないか。俺の理性を試してる?」

 拗ねたように唇が尖っている。

「……酔っている? 首が紅潮してるし、ビールの匂いが……」

 頭ぼんやりとしてるけど、あたし酔っているの?
 
 だから無性に朱羽が欲しいの?

「だけどそれはそれで悔しいな。素面ならここまで求めてくれないってことだし……」

 ぶつぶつと独りごちる朱羽の唇を奪おうとした時、あたしの唇に立てた人差し指を押しつけた。


「食べよう。どれが食べたい?」


 あたしを触れる手が消え、喪失感に寂しい気持ちになる。

 食べるより朱羽とくっつきたい。キスして、いやらしく抱き合いたい。身体が疼いてたまらない。朱羽を触りたくて仕方がない。

「朱羽がいい……」

「……っ」

「朱羽が欲しい」

 切羽詰まったような苦しげな表情を見せる朱羽は、あたしを睨み付けるようにして、がしがしと頭を掻いた。

「……、ちっくょ……なんの虐めだよ。酔ったらエロさまき散らすなんて。ああくそっ、だったら過去誰にこんなことをしてたのか、そっちに苛立ってくるじゃないか」

 すこし乱れた彼の髪の毛が、自然にさらりと元に戻るが、あたしを詰るように見ている朱羽の表情は、なぜか色香を増した。

「俺、マグロの刺身食べたい」

 ……あたし、マグロに負けたの? あの色香は、マグロに欲情したの?

 マグロにムカムカしながらも、彼に凭れていた身体を起こす。

「陽菜、口を開けて」

「え?」

「はい、食べさせて上げる」

 箸先で挟まれた、醤油のついたにっくきマグロの刺身。

 あたしの口に持ってこられて、思わず反射的に口をあけてしまった。

「美味しい?」

 朱羽がそう、美しい笑みで聞いてくるから、軽く咀嚼しながらあたしも笑顔で頷いた。美味しい。


「だったら、俺にも頂戴」


 目に妖しげな光を宿した朱羽の顔が傾き近づいてくる。


「え……むぅぅっ」


 あたしの唇ごと食らうように、もぐもぐと食まれ、緩んだあたしの唇をこじ開けるようにして、強引に舌が侵入してくる。

 咀嚼したマグロを喉奥に落とすことも出来ないでいるあたしは、口の中をかき回すような朱羽の舌に抗うが、マグロは奪われていき、舌が絡む音だけが淫らな音をたてる。
 
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