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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 
「ぅぅ……」

 口の中にあるのが朱羽の舌なのかマグロなのかわからない。あたしの一部が朱羽に奪われ、艶然と笑う朱羽に咀嚼されて嚥下されている気分になる。

 あたしが朱羽に食べられたそんな感覚――。

 レンズの奥の目は熱が滾り、さながら肉食獣のようだ。

 眼鏡をはずすと、彼の瞳は、より強い光を宿しているだろう。

 朱羽の舌が、あたしの唇の表面を左右にべろりと舐めた。

 いつもは涼しげで理知的で、泰然とした態度を崩さないのに、野性的な動物じみた一面に、ぞくぞくする。

 朱羽の顔は何面あるのだろう。まだ隠されている顔があるのだろうか。

 彼はこういうことを、意識的にしているんだろうか。それとも無意識なんだろうか。

 故意的なのだとしたら、あたしは見事朱羽の策に嵌まっている。

 もうほら、離れられなくなったじゃないか。

 朱羽の唇が欲しくて仕方がない。

 朱羽の首に両手を巻き付け、あたしからキスをして舌を絡める。今度は朱羽も舌を絡めてくれた。

 食事より朱羽がいい。

 朱羽が食べたい。いや食べられたい――。

「朱羽……」

 ねだるように甘えるように、キスの合間に漏れるあたしの声に、伏せ気味の長い睫を僅かに震わせて、あたしの頬を両手で挟んで、獰猛に舌を動かしてくる。

 息も出来ないほど激しくて苦しいのに、彼の荒々しさが嬉しくてたまらない。嬉しくて、気持ちよくて……幸せで。

 離れたくないと心が願い、身体がもっと繋がりたいと濡れてくる。

 満月とは違った欲情。

 朱羽のすべてが欲しくてたまらない。

 朱羽に触られるすべてが気持ちよくてたまらない。

 もっと、もっと――。


 ちゅぱっと音がして、朱羽が唇を離した。

「そんな可愛い顔で寂しがらないで。主導権を奪おうとしたのに……あなたとのキスは気持ちよすぎるから、これ以上は理性がぶっ飛んで止められない」

 そして朱羽はあたしを抱きしめると、やるせなさそうなため息をついた。

「早く金曜日になればいいのに。そうしたら俺、こんなにセーブしないよ」

「………」

「満月で、丁度よかったかもね。……俺、このままじゃ手加減して優しく抱ける自信がないから、あなた以上に狂うと思う」

「………」

「狂うあなたのナカで、俺も一緒に狂うよ。一緒に」

「……っ」
 
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