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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 どんな顔をしていいかわからない。

「九年前のように、狂いあおう?」 

 ただひたすらに恥ずかしく、ひたすらに嬉しくて。

 あたしを抱きたいと、だから我慢している朱羽が愛おしくて。九年前をまだ忘れずにいる朱羽に、切なくなってきて。

 いじっぱりなあたしだけど、せめて今、あなたの前では素直になりたい。

「……うん。じゃああたしも、金曜日我慢しない」

「は? 今ので我慢してるの?」

 驚いた声が向けられる。

「うん」

 そりゃあ、あたしだっていろいろしたいさ。

 いろいろして貰いたいさ。

 ……今、ふたつの身体というのが、もどかしくてたまらないもの。

「参ったな。俺もつかな」

「なにか言った?」

「いい加減食事を取ろうって言ったんだ。もういたずらしないから、はい。口を開けて」

 頭を撫でられ、彼はあたしを斜めに膝に乗せた形で、箸で小松菜のおひたしを摘まみ、あたしに「あーん」と耳元で囁いた。

 甘い甘い声に、身体が痺れていきそう。

 誘われるように開いた口に入れられ、もぐもぐと口を動かしているところを、じっと……愛おしそうな柔らかい眼差しでじっと見つめられ、ごっくんと嚥下しても食べた気がしない。

 ごはんとかお肉とか、何度も親鳥のように口に運ぶから、恥ずかしいのを我慢して食べた。


「俺も食べさせて?」


 振り向きながら渡された箸で、お刺身やご飯を朱羽の口に運ぶと、いい子いい子というように頬を撫でられ、嬉しそうに食べている。

 極上に整った顔に浮かぶ……大人と子供の端境にあるような生彩ある表情を見ていると、胸が中心部が息苦しいくらいに、とくとくと脈動してくる。 

 は……。

 なにこの幸福感。この充足感。

 恋愛が嫌だと、絶対しないと……そう思い続けてきたあたしが、こんなにひとを愛するなんて。

 恋愛は終わるから嫌だと言っていたのに、朱羽はずっと傍に居てくれると信じ切っているなんて。

 愛おしいと苦しくなる。切なくなる。……涙が出てくるほどに。

 それくらい、あたしはこのひとが好きだ。

 このひとのすべてが欲しくてたまらない。

 自覚すればするほど深みにはまって思えるのは、無自覚で既にかなりの深さで朱羽に溺れていたのかもしれない。

 ……引き返すことが出来ないほど。

 
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