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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 


 無言のままに視線が絡みあうと、互いの瞳が揺れて、キスをする。

 カタンと音がして箸が転がったのがわかった。

 真似事だろうと、恋人という形を得たあたしの恋心は、彼を求めてやまない。それに応えてくれるのが嬉しくてたまらない。

 彼の身体にすっぽりと包まれるように埋もれる。

 本当の恋人になりたい。

 あたしのものにしたい――。


 ねぇ、あなたは同じように思ってくれますか。

 それとも、こんな想いをしているのは、あたしだけですか? 
 

「久遠の湯に、行こう?」


 あたしの頭上に唇を落としながら、微かに掠れた声で朱羽が言った。


「悔しいけど、あやかりたい」

「え?」

「このまま久遠に、あなたの傍にいれますように。あなたが久遠に……俺の傍にいてくれますように――」


 頬に寄せられる朱羽の唇。

 胸の真ん中がどくんと拍動し、胸の中で熱いものが零れた。

 感動にも似た熱情が、言葉で表現できなくて苦しくて思わず涙する。

 あたしは元来、感情をひとに伝えたい人間ではない。どちらかと言えば、ため込むタイプなのだが、朱羽に対してはなにか違う。

 衝動となる感情を見過ごせないのは、朱羽が言葉であたしを安心させようとしてくれるからなのか。

 芽生えたばかりのこの甘えたのような熱を、どうか朱羽にわかって欲しい。ブルームーンに、あたしは名前をつけるから。

 これは恋だと、愛だと……あなたに告げたいから。

 だからそれまではどうか今は――。

「あたしも、あやかりたい」

 同じ気持ちだということだけはわかって。

「あなたと……行きたい。あなたに……久遠に傍にいて貰いたい」

 震える声でそう言うと、朱羽が優しく笑い、唇が重なった。



 ***


 午後十時――。


 ふたりで、久遠の湯に行き、男と女それぞれの扉を開けて中に入る。

 ……あたし達は知らなかった。

 待ち兼ねていたように社長が出てきて、『貸し切り』という札をたて、元々あった位置に、「混浴」と書かれた円筒状の電灯を戻していたことに。

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