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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

女子更衣室内――。
清掃したての時間には、他の利用客がいない。
着替えとタオルを入れるかごが空のまま、棚に整然と並んでいる。
どのかごに入れようか迷っていたら、『鹿沼様』と手書きの紙が貼られているのに気づき、そのかごには綺麗に畳まれた浴衣が入っていた。
「……、なにがあったのか、見抜いているよね、あれは」
さすが客商売に長けた女社長、客の表情や態度の機微の違いを看破できるのか。だとすれば、最初から朱羽だけをからかって追い詰めていたのは、鉄仮面のままで仕事をした朱羽にも、些細な変化があったのだろうか。
どこになにがあるんだろう。
首を傾げながら、服を脱いでいく。
確かにふたりだけの時は、やたら名前を呼ばせたがるし(あたしが呼ぶのを忘れるのもあるけど)、いつも纏っている氷は払拭してくっついてくるし(今ではあたしからくっついているかもしれないけど)、人前ではそんな様子はまったく見せず、女なんてふん!という感じで、キランと眼鏡のレンズを光らせている。
お前は肉食獣か!と言いたくなるほどエッチなことをしてくるし、わざと言ってくるのに、やけに自制心が強くて紳士的だ。
アメリカ帰りのせい?
男ってそういうもの?
だけど……嬉しかった。満月のあたしを受け入れてくれたことに。満月のあたしを知った上ということが、凄く心強かった。
朱羽がくれた言葉のひとつひとつが、あたしは生きていていいんだと、そう言われている気がした。
満月が、朱羽を導いてくれたように思えた。
初めて、満月の夜を待ち遠しく思う。
享楽に耽りたい……というよりは、朱羽のものになりたいのだ。抱かれたい。最後までして貰いたい。
好きだと言ったわけでもないし、言われたわけでもない。
それでも、セフレは嫌だという彼の言葉を信じて、ブルームーンからあたしも始めたい。久遠に、傍に居て貰いたい。
満月ではない日に、こんなことを思うなんて――。

