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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 
 『源泉掛け流し』

 と書かれてある張り紙を横目に、半透明のガラス戸をスライドさせると、轟音があたしの耳を襲う。服を脱いでいる間、やたらゴォゴォうるさかったのは、高い位置から大量の源泉がひっきりなしに下の浴槽に向けて流れているのだ。まるで滝のように。

 そう思えば、黒い岩を高く積み上げたようなこの雰囲気からしても、さながら渓谷の滝で。

 滝から落ちた湯がまた滝になる。或いは永続的にわき出ている。確かにその動きは久遠。永久に続く運動だ。

「だけどまあ、滝と言うには色が悪いけどね」

 コーヒー色の温泉のため、泥水が巡回しているようにも思えるが、そこはご愛敬。つるつるになる温泉であるのなら、文句はない。

 洗い場は三つしかない。

 ゴォゴォ温泉滝の轟音を聞きながら、今日何回目かの身体を洗う。

 最早大浴場で身体を洗った意味はなく、あたしの肌には朱羽に愛された跡がついているだろう。それ落としたくない気はしたけれど、それでも綺麗な身体を見せたいと思うから。

「まさかあたしがこんなことを思うようになるなんて……」

 苦笑しながら、洗った髪を持参した大きなヘアクリップでまとめ上げる。

「よし、じゃあザップーンしようかしら」

 誰もいないから、タオルは持たず、女裸族。

 かなり大きな浴槽なのに、入ってもどうしても真ん中に行けないこの貧乏性。手前側の岩に掴まりながら、ちんまりと縮こまって熱さを凌ぎ、露天中止と張り紙が貼ってある入り口を見た。

 こんなに熱いなら、お外に出られれば気持ちよかったかもしれない。

 カポッ。

 そんな時、桶をタイル床に置いた時にするような、特有な音が聞こえた。

 誰か来たのかと洗い場を見たが、誰もいない。

 聞き間違いかと思っていたら、やはりまたカポッと音がする。

 そして、

『はぁ……っ』

 と、やけに色っぽい男の声がした。

「え、なに幽霊!?」

 驚くあたしをよそに、また声が聞こえる。


『ぁあ……ヒナ……』


 あ、あたしですか!?

 それとも鳥の雛がどうかしちゃいました!?


『ん……』


 その声は、明らかに快楽を訴えるもので。

 風呂場だから余計に響いてくる。

 
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