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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon

そこからの朱羽の動きは、無駄がなく早かった。
既に桶に溜めていたらしい湯をばっとタイル床にかけて証拠を流し、あたしの両足を腕で掬い上げるようにしながらお姫様だっこで早足で駆け、浴槽にどぷん。同時に笑い声と共に扉が開いて、男がふたり入ってくる。
大きな岩影から男達の様子を窺う朱羽の顔は、どこにも怯んだり不安そうな色はなく、直前までいやらしいことをしていたとは思えぬ……爽やかなまでに涼しい面持ちを崩さない。
このひと実はスパイで、こういう局面を乗り切ることはお手の物なんじゃないだろうかと思うくらいの落ち着きよう。
男達は談話と洗髪に夢中になっているようで、岩に密やかに身を隠すあたし達がいる浴槽には一瞥した程度で、なにも違和感を感じないようだ。
男達が浴槽に入る前に、あたしが入ってきた口から逃げようと、朱羽はあたしを抱いたまま静かに温泉をかきわけて進んだが、そちらの洗い場からも今度は女性がふたり入ってきた。
「ねぇ、いいの~? 貸し切りなのに入って来ちゃって」
「いいのいいの。だってここはテレビでも紹介されていた、縁結びの……久遠の湯なのよ? 皆でその恩恵を享受しなきゃ。ここで出会えた男は、ずっと沢山愛してくれると思うよ」
「でも貸し切りだから、男は来ないと……」
「貸し切ったのがいい男かもしれないじゃない」
……恐ろしや。女達に朱羽が見つかったら、絶対永遠を誓わせられる。
そんなこと嫌だもん。朱羽はあたしのものだもん。
朱羽の胸に頬を押し当て、首に回す両手に力を入れる。すると朱羽はなにを感じたのか……あたしの頬に唇を押し当てながら、華麗なる水中移動で空間の奥角にある……ゴォゴォ音をたてる滝の前に来ると、あたしの頭を身体で覆うようにしながら、滝を潜ったのだった。
滝の裏がすぐ壁であったらアウトだったが、滝の裏側には角の三角スペースを大きな岩を積み重ねて作っており、ふたりが立つのがやっとの広さとかなりの高さがある。完全死角になる盲点の場所だ。
大きな岩がでこぼこに積み重なっており、そこに腰掛けられるため、あたしの胸の高さにある熱い温泉にのぼせずにいられそうだ。
隠れるのには絶好の場所だが、滝の音がうるさい。
滝はコーヒー色といえども、筋を作って落ちているため、向こう側の様子は覗き見れる。

