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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 

 ***


 綺麗な浴衣に着替えて更衣室から出て行くと、朱羽が壁に背を凭れさせ、羽織の袖に両手を互いに入れながら立っている。

 今回はちゃんと待ち合わせ時間を決めたせいか、黒髪はさらさらと乾かされている。眼鏡はかけていないが、物憂げな横顔も本当に綺麗な男だ。
 
 冷ややかに整った横顔が、あたしを見て柔らかく微笑んだ。

 蕾が花開くようなふわりとした微笑。胸が熱く胸が苦しくなり、思わず前傾になってよろけてしまう。

 それをさっと片手を伸ばして、ずっと支えてくれるあたりとか、

「大丈夫? 湯あたり以前に、無理させ過ぎちゃったよな。俺、ところ構わず盛ってしまったから……」

 あたしが自らしたことすら、自分のせいにしてしまうところとか、

「もう今夜は寝ようね。歩ける?」

 ……どこまであたしを惹き込ませるのだろう。

 こんなひとだから、あたしは……。

「……抱き上げようか?」

「大丈夫。早く戻ろう?」


 ごめんね、朱羽。

 あたし、あなたより貪欲みたい。




 
 部屋に戻り、冷蔵庫から冷たいビールを飲む。

 お膳はもう片付けられてあり、これ見よがしに襖が開きっぱなしになっている。


 缶に口づけて喉奥に落としている最中に、そちらを再発見したらしい朱羽はまたげほげほと咽せた。

 ……この布団のこと、忘れていたのかな。

 あたしは、覚えていたよ、朱羽……。

 
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