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いじっぱりなシークレットムーン
第7章 Waning moon
 


「………」

「………」


 しーんと静まりかえったままの真っ暗闇の部屋で、朱羽の呼吸だけが聞こえる。


 ビールのせいだろうか。

 こんなに朱羽がなにもしてくれないのが、恨めしいなんて。

 あたしからしていいの?

 嫌われない?


 そんな時、朱羽の衣擦れの音がした。


 来る?

 来てくれる?


 ドキドキしながら目を閉じて待っていたのに、なんのアクションもない。


「………」

「………」


 ただの寝返りかよ!!


 緊張にドキドキして死にそうなのに、朱羽はお眠りできるほどで。

 あんなにいやらしいことをしてきたのに、もうその余韻を引きずらずに忘れていられるほどで。


 ……あたしだけじゃん。意識してるの。

 案外朱羽は、あたしに恋愛感情はないのかもしれない。

 そりゃあ、普通よりはあるから、普通とは違う顔を向けてきて、ひとりでしちゃうほどいやらしいことを考えてるんだろうけれど、まさか……セフレが嫌って、友達以下の性処理道具とかにしてないよね?

 なにがなんでもそれはないと思うけれど、仮に朱羽にあたしに対して恋愛感情があったとしても、あたしと朱羽の恋愛感情や依存度は絶対イコールじゃない。

 朱羽 <<<< あたし

 限りなく「<」だ。

 
 ブルームーンで、あたしが告白しても困られたらどうしよう。

 セフレや恋人以外で、セックスを伴う関係ってあったっけ?

 朱羽が望んでいる形はなんなのだろう。

 彼が気まぐれであたしに触っていたら嫌だ。


 ……ああ、言葉がないってなんでこんなに不安になるんだろう。 

 なんでこんなに近くにいるのに、触ってくれないんだろう。

 当然触って貰えると思っていたあたしって、間抜け過ぎる……。


 その時、ぱっとオレンジ色の照明がついた。

 朱羽だ。


 彼はがばっと起き上がり、盛大なため息をつく。


「俺、やっぱり向こうで……」


 あたしは朱羽の身体に抱きつきながら、そのまま押し倒すようにして敷き布団に沈んだ。


「ちょ、陽菜!?」

「駄目? こうやって寝るの」

「え?」

「朱羽に触って寝たい」

 視線が絡んだ。

 朱羽の瞳が動揺に大きく揺れている。
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