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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 
~Eri side~


 なんで残業をしなくちゃならないのか、なんで結城が元気ないのか、こうやって陽菜と新任課長を見ていたら、なんとなくわかる気がした。

 お互いに必要以上近づこうとしないのが、わざとらしすぎる。

 相手を意識しているのは、陽菜も同じだ。

 昨日会ったばかりの上司に、そこまで意地を張る必要がある?

 たとえば香月課長に陽菜が弱みを握られて、陽菜が困っている……にしては、陽菜の態度が大きすぎる。

 陽菜はいつも上司には従順なのに、あの課長に対してだけは素の意地っぱりさを見せて居る気がする。


「ねぇ、結城。本当にあの香月課長のこと、知らないの? あんたの方が私より陽菜との付き合い長いんでしょ?」


 休憩室――。

 自販機から「眠眠打破」を買って飲んでいる結城に声をかけた。

 自販機で「カフェオレ珈琲」を飲もうとしたら、売り切れランプがついていた。思わずむっとした私に、横から伸びた結城の手。カフェオレ珈琲の缶をふたつもっている。

 こいつか、最後を奪ったのは。


「やる」


 怪しげな名前の小さな黒い瓶を呷りながら、流し目状態で私を見下ろす結城の顔には疲労感が強く出ている。


「さんきゅ。これは私と……」

「鹿沼。俺はそんな甘ったるい液は飲めない」


 甘ったるい液って……、なんだか身体に悪そう。


「陽菜に差し入れ出して、香月課長に出さないって、アウト? セーフ?」

「セーフだろ。俺は野郎には自腹切らない」

「フェミニスト気取ってるのに、陽菜のおごりには食いつくんだ? 惚れてる女にたかるなんて、あんたクズね」


 結城はぶほっと変な音をたてた後、咳を繰り返した。

 
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