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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「はあはあ、間に合ってよかった。包装がうまくいかなくて」
沼田さんは手に提げていた、やじまホテルのロゴが入ったビニール袋を差し出すと、社長がそれを取り、朱羽に渡す。
「では、これお土産。おふたりでどうぞ。すぐなくなると思うけれど」
袋に小さな箱みたいのが入っている。
お土産用に、お菓子を用意してくれたのだろう。
「お気遣い、ありがとうございます」
「いえいえ! 気に入ってくれるといいのだけれど。このひともいいというから、いつもこれなのよ。ね?」
「なかなかに、なかなかです。頑張って下さいね」
全くなにが言いたいのかわからないまま、あたし達はタクシーに乗り込んだ。
行き先は駅ではない。あたしの実家だ。
タクシーの運転手に聞くと、そちら方面はあまりよく知らないらしい。カーナビをつけて、あたしが言う住所に車を走らせてくれることになった。
後部座席に、あたしと朱羽は乗っている。
あたしの秘密を打ち明けたホテル。
朱羽への恋心を自覚して、甘えてしまったホテル。
蜜な夜を過ごした場所から去るのはなにか後ろ髪引かれる思いがしたけれど、隣に朱羽がいるから安心する。
「そうだ、課長。見てみましょうよ、頂いたお菓子」
朱羽はあたしの頬を片手で抓る。
「なにを!!」
「ふたりなのに、また戻ってる。はい、俺のことは?」
「っ、しゅ、朱羽」
すると、するりと手が離された。
どうしてもあたしは、社長やら仕事関係者と朱羽の部下として話すと、それを引き摺ってしまうらしい。
仕事着姿で呼び捨てにするのが気が引けるけれど、逆にそれがいけないことをしている背徳感となり、ぞくぞくするのも確か。
ああ、タクシーの運ちゃんに絶対ただの上司と部下じゃないと思われているに違いない。バックミラー越しにちらちらと視線を感じる。
「開けてみる?」
「ん……」
朱羽が貰ったお土産を取り出すのを躊躇している。
「開けてみようよ。小さいお菓子なら、帰り食べていこう?」
帰りの新幹線に、朱羽と帰れると思えば嬉しくて仕方がない。
あたしははしゃぐように、袋から取り出した……やじまホテルと印刷されている包装紙を開けていく。
「どんなお菓子かな?」
『薄々! 超極上薄 感度抜群0.01ミリ!』
箱の側面の文字で、手が止まった。