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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 


 6つめの停留所に、次の駅が「扇谷高校前」と書かれていた。

 朱羽が運転手に言い、扇谷高校の前で降ろして貰うことになった。

 7つめの停留所「扇谷高校前」――。

 凄く心臓がドキドキして止まらない。

 車は停留所から小道を左に入ると、キンコンカンコーンと鐘が鳴る音が聞こえてきた。

 そして古ぼけた大きな高校の校舎が見え、タクシーから降りて正門の前に立つ。

 懐かしいような気がするが、思った以上に感慨がない。

 10年近く見ていなかった母校に、懐古の情が芽生えない。


「気分はどう?」


 立ち竦むように校舎を見上げているあたしに、朱羽が声をかけてくる。

「感動がないというか……。本当にあたしここの高校に通って卒業したのかな……」

 苦しくて嫌な思いをしたはずなのに、それを思い出すこともなく、なにか映画を見ているような第三者的な立場であたしは眺めている。

「結城が、あたしはここの高校を卒業していないって言ってたの。結城はここの高校に通っていたあたしの同級生だって」

 あたしは今朝方に見た夢を思い出す。

 あたしが苦手だった同級生の顔が結城だった。

「今のあたしなら、結城が同級生だと言われても、否定出来る要素がない。ここにあたしは記憶がないの。いいことも悪いことも、ぽっかりと穴があいた感じで……」

 卒業したらこんな風にひとは昔を忘れていくものなの?

 扇谷高校という名称は記憶に刻まれているというのに、この校舎も写真を見ているような感じで、この校舎に思い出がないのだ。

「気持ち悪い……。なんだかあたしひとりが忘れているみたいで。なんで、思い出がないんだろう、この高校に。あたしはここを卒業したはずなのに」

 朱羽があたしの手を握った。
 
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