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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「ここから、家に戻れる? その道は覚えてる?」

「うん。夢にも見たから……覚えるはず。あっちの奥、白い車が止まっている道を歩いて行くの」

 あたしは朱羽と歩いて行く。

 現実味がなかった。

 まるで今こそが夢の中にいるかのように、地面がぐにゃぐにゃしているようにも思え、何度も眩暈を感じて立ち止まる。

「陽菜、またにしよう。顔色が真っ青だ」

「ううん、次にしたら、あたしはもうここに来たくなくて拒絶反応が出る気がする。これが最後のチャンスのような気がするから。とにかく実家に戻って、お母さんが居たら話を聞いて見ようと思う。それに……まだ家にあたしの部屋があるのなら、卒業アルバムもあるはずだし」

「じゃああなたの家に行こう」

「はは……。久しぶりで戻ったと思ったら、見知らぬ男とふたり連れなんて、皆びっくりして腰抜かしそう」

 笑いながら道を歩くと、夢と同じように古ぼけた煉瓦造りの喫茶店が出てきた。まだやってるんだ。

「……何度も練習させておくといいよ。俺も慣れたいし」

「え?」

「こんな形じゃなく、そのうちあなたの実家にお邪魔しようと思ってたから」

「なんで?」

 朱羽はふっと顔を綻ばせて笑った。

「そのうちわかるよ」

「え、変なことを告げ口にこないでよ!? あたしが東京でなにをしてたとか言わないでね、ね!?」

「……なんでそっちなんだよ」

 朱羽が明らかに不満そうな顔をする。

「じゃあどっちよ? どっちってなんのこと?」

「わからないなら、俺に聞くなよ」

 道なりに歩いて行くと寂れた小さな神社が出てくる。

「道、大丈夫? 合ってる?」

「うん。ちょっと道とかも綺麗になって家とか建物とか増えたけれど、ここの神社はちゃんとある。ここね、七五三とか受験の祈祷によく来ていたところなんだ」

「あなたは、ずっとここで生まれ育ったんだ?」

「うん。県外にも出たことなくて、ここしか知らない」

「……それなのに、東京に来たの?」

「うん。推薦で取れた大学が、東京だったから」

 朱羽は少し考え込む素振りを見せた。
 
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