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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 
 その声が頼りなげだったから、私は思わず足をとめて振り返る。

「どうって? 随分やり手だな、とか、年下に見えないわ、とか、頭いいとかそういう類いの感想を求めてる?」

「なわけねぇだろ。お前も会議で聞いてたろ、あいつの案。あれが無能だったら、俺営業降りるわ。社長が"化学反応を期待"と言ったわけがわかった。俺は、俺達でシークレットムーン盛り立てた自負あるけど、あの課長でまた変わる気がする」

 結城のいいところは、"俺が盛り立てた"と言わないところだ。

 結城だって夜中まで駆け回って営業していたことあるのに、それを持ち出すことなく、あくまで"俺達"だ。


「へぇ、まだ二日でそんな高評価しちゃってるんだ?」

「ったり前だろ。結局すべては鹿沼を楽させるためだけの案で、あそこまで動けるんだ。俺達に話した時には既に、社長決裁貰ってたよ」

「あの課長、私と同じ訳ありと見てる。人を信用していない気がする、陽菜に対しても。あの子はへこたれる子じゃないし、純粋に楽しんでいるのに。二日で陽菜のなにがわかるって言うのか」

「………」

「結城、用心して。あの香月課長は陽菜を意識してる、男の目で」

「……っ」

「私はどちらもつく気はないわ。陽菜の決定に従うだけ。……それからね、あんたのその"想像"はあたってると思う。あれは、前からの陽菜の知り合いよ。他人の振りするくらいの仲だと言えばいいのかしらね」

 結城の瞳が揺れた。


「まだ私も今日見たばかりだからなんとも言えないけれど、荒れそうな気がする。結城、ちゃんと舵とらないと、陽菜がどこに行くかわからないよ?」

「………」

「とりあえずは、陽菜たっての希望なんだし、ふたりにさせない。さあ、もう皆帰っただろうし、出陣!」

「ああ……」


 結城はなにやら考え込んでいた。

 まさかこの後、陽菜を探す羽目になるとは、この時の私達は知らない。




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