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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「それ以外で外に出たことは? 駅から電車や新幹線でひとりで違う場所に行ったことはあるの?」

「……精神科に行った時。それ以外は行ったことがない。友達ともなかったと思う」

「なんで、その精神科で診察しようと思ったの?」

「大きい病院に、精神科があるの知ってたから。とにかくここ周辺の病院では、誰かにわかられるのが嫌だったから、電車でひとつの大きな隣町に行ったの」

「ここから出たことがないのに、その大きな病院に精神科があると、なんでそんなことがわかったの?」

 朱羽は怪訝そうな顔を向けてくる。

「その時代って、今ほどネットが普及していなかったはず。あなたはなんでそれを知った?」

「多分……家族からかと」

「内科ならまだしも、精神科があるなしなんて家族で話すもの?」

「じゃあ学校の友達とか……」

「同じだよ。高校生がそんなこと話題にはしないと思うけど」

「……じゃあなんであそこに行ったんだろう。今は廃院になっているはずだけど」

「なんという名前の病院?」

 ひとつの病院の名前を口にすると、朱羽は背広の内ポケットからスマホを取り出して、それを検索にかけたようだ。

「……廃院になったその名前のものは存在しない」

「は? 情報がないってこと?」

「そうじゃないだろう。まるで検索結果がヒットしないのは……」

 朱羽があたしを見た。

「あなたはそこに通っていない」

「通ったわよ。それでその先生の紹介でクリニックで薬を……」

「その精神科医の名前は?」

「御堂……大吉だったかな」

「その名前ならヒットする。結構有名な先生らしいね。だけど……その経歴を見ても、その病院の名前はない」

「なんですって!? 写真出てる?」

 あたしは朱羽のスマホに飛びついて覗き込んだ。

 確かにその写真は、あたしの記憶にある御堂医師だ。
 
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