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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
「彼は東大の医学部を卒業した後、社長が入院している東大付属病院の精神科に配属になってから、転院してもずっと東京都内の大きな病院だ。それで今は開業している」
「開業?」
「そう。今、そのHPにある院長経歴を見ているけど、他の頁と同じように、その病院に居たということは書いていない。約十年前というと、東京駅近くの大学病院に勤務中だな。間違うことはないだろう」
「え、隣街の病院にいないの? 東京?」
「うん。仮に御堂医師が非常勤でも短期でその病院に居て、廃院になるからと東京にある他のクリニックにあなたを頼まなくても、彼は東京にいるあなたを診れるのに、なんであなたを手放した?」
「ちょ、ちょっと待って……」
当時のことがよく思い出せない。
「廃院になるから、ここに行けと名刺もらって……薬だけを……」
「紹介状は貰わなかったの?」
「そんなものはなかった。電話で話をつけておくからと……」
「医者同士でそんなことはありえないね。しかも診察なしで薬だけ出すなんて。そのクリニックはどこかなにかわかるものある?」
「診察券が。この"まごころメンタルクリニック"ってところで」
朱羽はあたしが財布から取り出した診察券を見ている。
「担当医は?」
「院長先生で……」
「名前は?」
「名前は……」
自分のことなのに思い出せない。
「え、なんで? 院長先生としか思い出せない」
「陽菜」
朱羽が堅い顔をして、あたしにスマホを見せて言った。
「その御堂医師が院長をしているのが、"まごころメンタルクリニック"だ。住所も電話番号も同じだ」
「ええええ!?」
スマホには、そのHPの院長に、あたしの知る御堂医師の写真がある。建物も地図も、あたしが通っているところだ。
「あなたが会っているのが院長であるのなら、御堂医師だ」
「あたし……そういえば院長の顔ってよく見てことがない。いつも俯いてカルテに書いてて薬をくれて……。だけど、そんなはず……」
あたしは廃院になるからと御堂医師に言われて、そこにいけと言われた。本人であるはずが……。