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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

あたしが載るはずだったアルバムに、彼氏もおらず、結城だけが載っている――。
これはどういうことだろう。
あの夢は、あたしの記憶の一部だったのだろうか。
「熊谷は複雑な家庭事情だったからな。熊谷は確か父方の姓を名乗っていたはずだが、母親はいいところのお嬢様で、男と駆け落ちして熊谷が生まれたとかいう噂があった。私生児みたいなものだから……」
教頭は薄くなった頭をかきながら、苦笑する。
「言っても仕方がないな。あいつ、いい親父さんとお前の件でかなり変わったんだ。確か、お前が推薦とったのと同じ大学に行ったはずだが」
「先生、教えて下さい。あたしのこの頃の記憶があやふやなんです。一体なにがあってあたしは、ここを卒業できなかったんですか? 結城……いえ、熊谷睦月はあたしになにか関係しているんですか? 千紗は?」
教頭は言った。
「俺が知っているのは、聞いた話だぞ。お前からは聞ける状況ではなかったから、お前の知っていることとは少しニュアンスが違うかもしれない」
「はい」
「お前が高校三年の夏――」
教頭は話し始めた時、スマホがブルブルと震えた。
もしかするとお隣さんか山瀬さんか。
ぴったりとしたタイミングで、あたしは真実を知るのか。
「お前の目の前で、3-Cの倉橋とお前の妹の千紗が――車に撥ねられて死んだんだ」
「――っ!!!」
「猛スピードで三叉路を突っ込んできた車に轢かれたから、凄惨な屍体だったという。それをお前は目撃していた」
「倉橋……って、倉橋守ですか? このアルバムにない!」
「そうだ」
朱羽があたしを見て、静かに口を開いた。
「倉橋守というのは――、あなたの彼氏だった男ですね?」
あたしは、頷いた。
朱羽には動じた様子がない。
もしかしてこの展開になることを彼は予測していたのだろうか。
あたしが思い至らなかった、この展開を。
夏に彼氏が……守が既に死んでいたというのなら、あたしの記憶の時間の整合性がとれない。
あたしが満月のことで、卒業まで守に嫌われた時期があることは、ありえないのだ。

