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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

「でも……ふたりが死んだなんて、そんな……」
もし今、自分の顔を鏡からのように冷ややかに見つめることが出来たとしたら、あたしの瞳は激しい動揺に揺れているだろう。
思い出せないから余計に、教頭が語るその出来事が衝撃的で、あたしの思考がついていかない。
あたしを苦しめた張本人も、妹もこの世にいないなんて。
ふたりの魂が散る様を、あたしが見ていたなんて。
――いやあああああ!!
満月の発作が起きる前、ざわつくひとの声に混ざるようにして、確かに聞こえたのは誰かの悲鳴。そして急ブレーキをかけるような、キキィッというような音も混ざっていた。
確かにあたしは、そうした幻聴に毎月苛まされている。
どんなに今意識が否定しても、あたしの身体のどこかはそれを覚えているのではないか。
フラッシュバック、かもしれない。
もしかすると満月の夜にそれを目撃したから、満月に発作が起こるようになったの?
でもそうしたらなんで、あたしはセックスをしたくなるの。
どうして、あたしは欲情を止められなくなるの。
――ごめんね、お姉ちゃん……。
頭の奥が、ツキツキと痛む。
――私は……。
ちかちかとなにかが閃光のように点滅している。
嫌だ。
その先に見えるところに行きたくない。
引き返したい。
でも――。
「大丈夫か、鹿沼?」
でも、朱羽と始めたいから。
始めるためには、あたしもあたし自身を知りたい。
大丈夫、朱羽は……居てくれるから。
昨日の夜、それをあたしは信じたの。
信じて……好きだと、そう自覚したの。
あたしの想いは、彼への絶対的信頼から生じた誓いにも似て。
それは消えないから――。
教頭の声より先に、朱羽の手がカタカタと震えるあたしの手を握った。
その強さと温もりに泣き出しそうになる。
彼はあたしに、欲しい力をくれる。
だからあたしも、頑張らなくちゃ。
穢れきったあたしだけど、朱羽の前では清くいたいから。
「……はい、大丈夫です」
ぎこちなく笑うあたしに、教頭は哀れんだような表情を向けた。
「あたし、なくなった記憶を取り戻したい、んです。なにも知らないまま、あたしはこの先笑っては生きていけない。過去と、対峙しないと」
「鹿沼……」

