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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

 朱羽が教頭に尋ねた。

「彼女が学校を辞めたというのは、それが起因で? たとえば心身状態がおかしくなった、とか?」

「ああ、あの時の鹿沼はひとの言葉が通じない、そんな感じだった。重症な自閉症のようになり、生きながら廃人のように……部屋の隅でぼんやり目を開いた状態で、話すこともない。こちらの声に反応するのでもない。そこまでショックを受けるのは、殺意があって実行した可能性が捨てきれないと、警察が言ったくらいに」

「殺意があって実行した可能性? なにか鹿沼さんに嫌疑がかかったんですか?」

 朱羽の言葉を受けて、教頭が唸るような声を出して、言いにくそうに口に開く。

「事故現場に居合わせた者の目撃証言で、鹿沼は両手を突き出した形で事故を見ていたらしい」

「え?」

 思わず顔が強ばる。

「それで泣き叫ぶでも呆けるでも、助けるでもなく。……泣きながら、笑っていたと。そして、ふたりが死んだのを確認して倒れたと」

 まるで思い出せないその現場。

 うちの近くの三叉路で、あたしはなぜ両手を突き出して笑っていたのか。

 まるで。

 まるで、その形は――。


「あ、あたしが……殺した? あたしが、守と千紗を!?」


 ちらちらと、あたしの脳裏で警告のように満月が点滅する。

 だからあたしは、良心の呵責に発作が起きるというの!?

 いや、違う。そんなの絶対違う。


「なんであたしがふたりを殺さないといけないの。なんであたしが……っ」


 身体が震え、冷や汗が頬を伝うのを感じた。もっと訴えたいのに言葉が喉奥から出てこない。代わりに出てくるのは、流したくもない涙。

「陽菜!!」

 朱羽があたしの側頭部に手をあて、そのまま興奮するあたしの顔を自分の肩に引き寄せた。あたしが素直に彼の肩に凭れて、流れる涙を朱羽が指で拭うことに抗わなかった様を、教頭が見ていたようだ。

「……香月くんなら自然に鹿沼を支えられるようだな。よかったな、鹿沼。心から信頼出来るいいパートナー見つけて」

 あたしは薄く笑った。

 あたしが朱羽を信頼している様は、ひとからわかるものなのか。信頼だけじゃない。前に進む力をも貰っている。

 朱羽の手の熱が、重い現実に逃げそうになるあたしの心を引き留めるんだ。この広い世界の中、あたしはひとりじゃないと。
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