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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

「えええ!?」
「娘がいるのに、相続の通知がないのはおかしい。ないというのなら、あなたの記憶が一番曖昧な間になされているはずだ。……教頭。鹿沼さんのご両親が亡くなられたのは、彼女が高校三年の時ですよね?」
あたしが縋るようにしてじっと見つめると、教頭は頷いた。
「そうだ。あの事件が起きて一ヶ月後のことだ。まだお前はここに在籍していた。休んではいたがな」
あたしは脱力する。
あたしは両親の死も、妹の死も知っていたというの?
「あの状態なら、幾ら見ても言われてもお前は理解していないと思うぞ」
そんな教頭のフォローも頭に入ってこない。
「教頭、彼女が東京に行くことになった経緯はご存知ですか?」
「ああ、なんでも熊谷の母親の妹の恋人が、大学病院にいる有名な精神科医だからそこにお前が元の状態になるように頼んでみると」
「それは熊谷さんが?」
「熊谷と義理の父親だ」
「月代……さん?」
「ああ、そんな名前だったな。知り合いなのか?」
朱羽が苦笑した。
「はい。月代さんの会社で、私も彼女も熊谷さんもおります」
「なんだって!?」
社長。
あなたはいつからあたしを見守って下さっていたんですか?
そんな素振りを見せていなかったのに。
結城から、高校時代のあたしをなにか聞いてるんですか?
もしかすると、入社前に会っていたりするんですか?
結城。
なにを隠しているのよ。
十年も前から、なにも知らないふりをして。
あんたの笑顔が苦しいよ。
それは、本当に笑顔だったの?
ブルブルブル……。
呆けるあたしでも感じる、朱羽の背広から伝わるスマホの震え。
まさかお隣さんか山瀬さんがあたしに連絡つかないからと、朱羽に……と思ったが、朱羽は名刺を渡していないはずだ。
「すみません、ちょっといいですか。会社からなので」
教頭が了承し、椅子から立ち上がって電話をとった朱羽の声が響く。
なにやら堅い声だ。
会社から? どうしたんだろう。

