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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 

 ……などというあたしの叫びは一切顔に出さぬようにして、あたしはいつものように余裕ぶったように説明を続ける。昨日よりかなり早口で。

「……次、このT組合には、うちはネットワーク環境と会員システムを納めてます。会員のランクによってHP上からも検索出来るように……」

 見てる。

 見てる。

 資料より、あたしの顔をじっと見てる。

 月の光を浴びると琥珀色になる、昨日吸い込まれてしまった茶色い瞳で。

 あたしが喋るから見ているんでしょうけれど、だけどこれ仕事なの。喋らなかったら終わらないの、わかる? あなたがこちらを見ているなら、あたしが目をそらすわけにはいかないでしょう!?

 こっち見るな、穴があくではないか!!

 その心の叫びが通じたのか、課長は静かに頭を動かして反対側を向くと、ぶほっと変な音を出した。


「課長、なにか?」

 今、笑った? ねぇ、あたしの真剣さに吹き出したの!?


「いえ、続けて下さい」


 しかしまた向いた顔は、どこにも笑みなど浮かんでいない。いつも通りの冷ややかな表情だった。

 どうやら気のせいだったらしい。

 上着だけを席に置いてきた。同期ふたりに帰ってないよアピールしたつもりが、その上着にスマホを入れたままだったことを忘れてしまい、SOSを求める手段がない状況だ。

 ここは鉄腕OL、ひとりで切り抜けないと。

 この部屋の外にはふたりがいると思うだけでも心強い。


 鹿沼陽菜、乗り越えてみせます!


 だから喋る。とにかく喋る。声が枯れてもつっかえても咳をしても。

 終われ、終われ。

 神様、仕事放棄したり説明に手を抜いていないのだから、時間を早送りにして下さい。出来れば十倍速で。

「このT組合には営業が? それとも紹介で? 主任もいかれたんですか?」

 しかしそういう時に限り、明日でもあさってでもいいようなことを質問してくる。しかも反論を受け付けない鉄面皮のままで。
 
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