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いじっぱりなシークレットムーン
第3章 Full Moon
 


 このペースだったら、今日の分も終わらないじゃないか。分厚いファイルあと五冊もあるのに、まだ一冊の五分の一もいってない。

 ああ……、まだ七時前なのに、あたし泣きそう。

 今まで頑張って仕事してここまできたのに、この課長のせいで泣きそう。

 思わず顔を俯かせて声が震えると、課長が言った。


「お手洗いなら、どうぞ?」

「違います、行きたいとも思ってません!!」


 失礼な彼を、思わず睨み付けた。


「ああ、喉が渇いて死に途中ですか?」

「生きてますし、喉乾いてないですから!!」

 見ればわかるだろうに、生きてるからこんな残業しているんだ。出来るなら死にたいよ、死んでこの氷の男がいない暖かいところでゆっくり寝ていたいよ。


「仕事放棄して、逃げだそうとしているとか?」

「逃げたいの我慢して頑張ってます!!」


 すべては責任感ゆえに!!


 鼻息荒くそう言い切ると、彼は薄い口元に笑みを浮かべて言った。


「問題ないのでしたら、では続きをどうぞ」


 にやりと、嘲るように笑ったのを見て、ようやくあたしは気づいた。

 
 ああ、しまった!!

 どうしてあたし、せめて、トイレに行きたいとか飲み物買ってきたいとか言えなかったのか。これで出て行くチャンスを失った。

 誘導尋問か、性格悪っ!!


「九年前――」


 突然、忌避していた単語が彼によってもたらされる。


 どきっ!

 心臓が口から出てきそうなくらい、心臓が大きく跳ねた。
 
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