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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

朱羽に睨まれながらも笑いを鎮めると、朱羽が言う。
「あなただけだよ」
「え?」
目尻の涙を指で拭い取りながら聞き返した。
「あなただからだ。俺が我慢してるのも。だから自分を卑下しないで、優越感を持ってよ。あなたはそれだけの女なんだって。どんな過去も関係ない。俺と相対しているのは今のあなたなんだ」
「………」
「俺があなたの傍から離れないというのは、あなたにはなんの根拠もないかもしれないけれど、俺にはちゃんとした根拠がある。だから、俺のためとか言って離れようとするのはよして。そういう理由は、俺認めないよ。そんなことしたら、強硬手段をとらせて貰うから」
「……っ」
「どんな理由でも逃しはしないよ。……可哀想な陽菜。俺とブルームーンを過ごしたいなんて言ったばっかりに、俺につけ上がられて」
あたしを過去ではなく、現在の鹿沼陽菜に固定させようとしているのが痛いほどよくわかった。
「ありがとう……」
「別に礼を言われることしてないよ。礼なら……ブルームーンが明けた朝に言って」
朱羽はあたしの耳に唇を近づけて言う。
「"ありがとう、こんなに気持ちよくしてくれて。また挿れて?"」
「朱羽っ!」
「あはははは」
あたしが怒ると、朱羽は端麗な顔を綻ばせて笑う。
彼は外見上は落ち着いた……冷静沈着な雰囲気に見えるけれど、時にこうして子供ような無邪気な笑いを見せてくる。
「陽菜、大丈夫だよ」
「え?」
笑いをやめたその顔は、哀愁が漂うもので。
「なにも変わらない」
「………」
「社長も頑張っているんだ。死ぬなんて思うのは失礼だ。俺達が信じなきゃ」
「……うん」
「聞きたいことがあるだろう、あなたには。結城さんにも」
あたしは大きく頷いた。

