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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

東京駅にもうすぐというところで、またもや木島くんからメール。
木島くんは会社で作業があるくせに、杏奈に会社から追い出されて、社員は勿論のこと、結城やあたし達への報告係としてのミッションを課せられ、衣里と病室にいるようだ。
木島くんの報告によると、結城が営業の合間に病室に来てすぐに、社長は自発的な呼吸が困難になってきたらしく、ピーピー機械音がうるさい中で人工呼吸に切り替えたとのこと。これで社長の容態が回復しなければ、あたしは社長と話すことが出来ないことになる。
――お~い、カワウソ~。
最初からなにかと構ってきたやる気のない社長。
だけど、会社の危機に誰もが頼った有能な社長。
忍月コーポレーションから独立して、結城の父親で。宮坂専務も矢島社長をも魅了した、人望ある月代社長。
お願いだから、こっちに戻って来て。
逝くのは早すぎる。
まだまだあたしは、聞きたいことがたくさんあるというのに。
東京駅から、タクシーで東大付属病院へと急ぎ、社長の入院している特別室に駆け込んだ。
ドアを開こうとしたら、自動ドアのように勝手に開いて、電気ポットを手にした木島くんが現れた。
「ひゃっ!」
危うく木島くんとちゅうしそうなところで、そこから先はスローモーション。朱羽の手が前に出てきて、あたしの首に巻き付いた。ぐえっと仰け反りながら後退れば、危機一髪。
「うおっ、驚いた。お帰りだったんですね。課長、主任お疲れ様っす! せっかく昨日皆でお祝いしようとしてたのに、災難でしたっすね~。だけどいちゃつけたっすか? しゅうしゅう~」
にやにやの木島くん、あたしとちゅうの危機に気づいていないようだ。
しゅうしゅう息を吐いて、ちょっと触れただけで吸い付いて離れないような唇なんかいらないよ。あたし、まだ生きていたいよ。
「留守をお任せしてすみません。社長はいかがですか?」
朱羽は涼しい顔をして、木島くんの戯れ言に乗らない。
凄い勢いで首を絞められたけれど、それを見せずにいられるとは、うん、さすがの鉄仮面。

