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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 
 
 社長の手を握り、片手では衣里の頭を撫でながら、小さく声をかける。

「社長。あたしは色々……お礼を言いたいんです。あたしをムーンに入れてくれたのは、偶然じゃなかったんですね……と、衣里!?」

 衣里があたしの手にのしかかるようにして、気を失った。

 人間、意識がなくなった途端に凄まじい重さになる。両手を使ってもよろけるあたしを救ってくれたのは、背広姿の結城だった。

「あ、ありがとう」

 あたしが難儀した衣里をすっと両手で抱いて、客間に運ぶ。

「なあ、鹿沼」

 背中を向けたまま、結城が尋ねた。

「……俺の顔見ないのはどうして?」

「べ、別に……。衣里で手一杯で……」

「親父に、お前が会社に入ったのは偶然じゃなかったって、なに」

「そ、それは……」

 小さく言ったつもりだったのに。

 結城はあたしの変化に気づいている。


「N県で、なにか……、思い出したのか?」


 ……そう、そんなこともわかるくらい、あたしと結城は近くに居た。

 
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