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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon

***
社長に人工呼吸器をつけたのは、自力で呼吸をする際の体力を回復に回すためだそうだ。普段あたし達が何気なくしている最低限なことも、社長の身体には祟るものらしい。
前に倒れた時よりも、社長と繋がっている機械が増えている。
IT会社に勤めていても、ひとつひとつの機械がなにを計測しているのかわからなかったが、血圧と心拍数を表示しているモニタだけはわかった。
上の血圧が60を切ったら危ないということはどこかで聞いたことがあるが、社長は100のところを行ったり来たりしている。
ぼんやりと見ている間に一気に80を切ってしまい、あたしは焦る。慌てて手を掴んで頑張れと声をかけると、血圧がまた100あたりに上って、安堵の息をついた。
さっき来た看護師が、聞こえているはずだから声をかけてみろと言っていた。確かに聞こえているのだろう、あたしが語りかけると下がった血圧が、上がっていくのだ。
あたしの呼びかけに応じてくれているんだ。
生きようとしているんだ。
それがわかる度に涙が出る。
「社長、頑張って。ね? 聞きたいことあるの、社長に。言いたいことがあるの。お礼もなにひとつあたし言ってないの。ちゃんと戻って来て聞いて下さい。お願いだから」
握った社長の手に、ぽたりと涙が落ちると、社長の親指がぴくりと動いた。意識が戻ったわけではないけど、社長はちゃんと生きている。
嬉しくなって、あたしはまた泣いた。

