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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 


「心底むかついたね。お前はいつも正義漢ぶってクラスに居た。皆がお前を頼ることに慣れきっていた。俺とそんな親しい仲でもなく、むしろ俺に怯えていたくせに、お前に俺のなにがわかるのかと思った。なにが永遠だよ、騙されているくせに、と」

「騙されてる? なにに?」

 結城は数秒間を置いてから言う。

「倉橋。あいつがお前に近づいたのは、恋愛なんかじゃねぇ」

「え……」

「お前、告られたの倉橋が初めてだったんだろう? それでお前はその気になって、俺に説教したくらい永遠を手に入れた気になっていた。恋も家族も学校の仲間も。永遠を手に入れて幸せだと。お前はなにもねぇ俺に、それを自慢して、俺もそうであるべきだと押しつけてきた。……俺はそう思った」

「……っ」

 当時のあたしがどんな風に言ったのかはわからない。だけど言葉は、受け入れる側によってどうとでもとられる恐ろしいものだ。

 あたしは自慢なんてしていないはずだ。それなのに、それが結城の心にナイフのように突き刺さったのか。

 それで――。

「だから俺は、その永遠を……無性に壊してやりたくなった」


――壊してやる。


「だから千紗に近づいたんだ。元々あいつも、俺ら界隈に近づくような裏の顔があったし」

「裏の顔? どういうこと?」

「お前や家族の前ではいい子ぶっていたかもしれねぇが、すぐキレて喧嘩する好戦的な俺よりタチ悪い……、たとえばドラッグやっているのとかウリを強要させるのとかと付き合いがあり、金さえ積めば誰とでも寝る女だと噂があった。何度か夜の危ねぇ世界で顔を合せたことがある。それが接点と言えば接点だが」

「なんでそんなこと……」

「千紗、養女だったんだろ? だからお前と血が繋がっていない」

「え……」

 千紗は血の繋がった――。

 キーンと耳鳴りがして、電話口の山瀬さんの声が蘇った。

――あなたの家は少し変わっていたわよね。千紗ちゃんばかり可愛いお洋服を着せて、ご両親可愛がっていたでしょう。そのせいか千紗ちゃんは本当にワガママで、だけどあなたは本当にいい子だったわよね。あなたを心配して声をかけた私に、あなたは家族がいるのは幸せだってそう笑ったのよ。
 
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