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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 


「千紗は半狂乱になっていた。倉橋も通行人も突き飛ばすくらいに」


 結城が憂えた目を伏せ気味にして話す。


――いやああああああ!!

 
「……それで起きた事故だ。倉橋は飛び出た千紗を庇うように、結局ふたりは……頭と片足が離れた状態で。それを俺もお前も、仲間達も見ていた……」


「それが満月の夜だったの?」

「ああ」


 満月――。

 またフラッシュバックのように映像がちかちかと点滅する。


 車が走ってきた瞬間、頭によぎったものはなにか。


 満月をバックに千紗が泣きながら笑う。

 ありがとう、ごめんね……そう口を動かして道路に投げ出され。

 守は恐怖に引き攣った顔で……。


 ……ありえない。あたしは突き飛ばさない。そんなことは絶対ない。

 ふりきるようにして、冷静な頭で考えた。

「満月の発作は、その記憶と輪姦される恐怖、お父さんに犯されたことがネックになっているんだね……」

 身体に滞りなく酸素が行き渡っている気がする。

「そうらしい。そしてお前が見た千紗の淫乱さが結びついて……ああ、そんなことどうでもいい。俺が、倉橋をけしかけてゲームなんてしなけりゃ、防げたことだったんだ」

 結城は声を震わせた。

 その翳った顔は、かなり悔いているようだ。


「精神科医に言われてたんだ。お前が自分で知りたいと思って動いたら、偽の記憶は消えると」

「偽……」

「ああ、つじつま合せた形で。あの先生は催眠療法の権威者で、定期的にお前と会うことで、継続して記憶が戻らないようにしていてくれた」

「………」

「……ごめんなんて言えるものじゃねぇ。家族を失ったお前は本当に痛々しくて。親父が、初めて俺を殴ったんだ」

 自嘲気に結城は笑う。

「だけどそんな最低な俺を見捨てねぇでここまで引き上げてくれた。恩人以上の恩を感じているよ、親父には」

 あたしは結城に尋ねた。

「大学で……会いたくなかったでしょ」

 結城は薄く笑いながら、頭を横に振った。

「いいや。違う俺で、お前にもう一度出会いたかった。お前を乱したくなくて、ごめんが言いたくても言えなかったけれど、それでも……なにも知らないふりをしてでも、今度こそお前を守ってやりたいと思った。遠くからでも守れたらと、だから同じ大学に死に物狂いで勉強して入った」

「結城……」
 
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