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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

 ***


「さあ、社長の生還に皆で乾杯しよう。ノンアルコール、あたし下のコンビニ行って買ってくるね!」


 結城を残して朱羽と客間を出た後、あたしは朱羽の顔が見れなくて、無理に明るく装って、皆に聞こえるように大きな声で言った。


「あ、主任! 俺が買ってくるっす!」

「木島くん、いいからいいから」

「陽菜、私も一緒に行く!」

「衣里も、いいからいいから」

「鹿沼さん……」

「課長もいいですから」

 朱羽の声も笑顔で遮った。

「皆でどうか社長のところについてあげていて。木島くん、専務と沙紀さんにお茶淹れて持って行ってくれる? コンビニはあたしひとりで行きたいの! じゃよろしく!」

 ドアを開け廊下を走り、エレベーターの下向きのボタンを押す。

 何度も何度も、カチカチと指で押す。


「早く早く早く……」


 あたしの目からぼたぼたと垂れる涙を気づかれないうちに。

 早く、ここの場所から遠ざかるために――。




 コンビニは0時で閉まる。

 今は夜の11時をちょっと過ぎたあたりだ。



 コンビニの横には会計の窓口があり、待合として五列の椅子が並んでいる。

 今はコンビニの光だけが仄かに照らし出す、薄暗く閑散とした椅子の真ん中に座り、前の座席に手を回し、額をつけるように前屈みになりながら、嗚咽を漏らした。

 涙が床に染みを作る。


 過去の開示を求めたのはあたしだ。

 だけど出てきたのは、あたしの許容を超えていた。


「……くっ、ひっく……」


 結城の目の前で、実の親に犯された汚らわしい娘。

 身体がざわざわしてくるんだ。

 考えるだけで、気持ち悪くてたまらない。

 
 あたしを襲った時の、興奮に見開かれた父の瞳が、まるでぎらついた黒い満月のようで。

 妖しく強くあたしを縛って、押さえつけた。
 
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