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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「あなたが自己防衛で忘れてしまっていたのもあるだろうけれど、そこは精神科医の関わりがあるんだろう。催眠療法だというのなら、あなたにとって都合が悪いものはすべて忘れさせている。つまり逆を言えば、忘れていることこそがあなたにとってのショックの要因でもあるんだ」

「……っ」

「あなたの知らない間に、彼氏と妹が先に家に居た。もうそれだけで、俺は……このふたりが普通の関係ではないだろうと踏んだ。いつからなんて関係ない。ふたりがあなたを裏切っていたことが肝心だ。すると結城さんはどんな役割をするのか。8年もあなたを守るのを当然と思うまでのなにかがあったのだとしたら、引き起こしたのは結城さんじゃないかと思った」

「………」

「俺はね、陽菜。大勢の男達と、肉体関係のある妹と恋人、そしてあなたになにかしたい結城さんがいたのだから、あなたが……輪姦(まわ)されたと思っていた。その仲間と結城さんに。めちゃくちゃに壊されたと」

 朱羽の横顔は、青白く。

「それでも、俺はあなたの傍にいようと思っていたよ」

「朱羽……っ」


「妹の存在はあっても、あなたは両親のことはいつもなにも言っていなかった。だからご両親になにかあるとは思っていたけれど、その場面にあなたの父親が出てくるとは思わなかった。だけど納得もした。だからあなたが記憶を消されても、淫らな満月が執拗について回っていたのだと。目の前での事故死くらいの衝撃だったのだと。

父親か輪姦か、どちらだと心の傷がマシだったのかなんて、馬鹿げた論争はするつもりはないけれど、あなたのご両親の自殺は……脅しだけが原因じゃないと思ってる」

「え?」

「あなたのお母さんが、夫が千紗ちゃんに手を出していたのを本当に知らなかったのだろうか。事故に遭った時の夫の様子、あなたの様子から、なにも感じなかったものなのだろうか。……そう思うんだ」

「どういうこと?」

「これは勝手な俺の想像だけど、あなたのお母さんが仕掛けた無理心中だったんではないかと思ってる。多分引き籠もってしまっていたあなたは、そうした言い争いなどを聞いていると思うよ」

「………」

「あなたのお母さんは、道連れにはお父さんだけにした。それはお母さんなりの愛情表現と懺悔だったと、俺は思う」

 忙しいばかり口癖の母。

 母は……最期になにを思ったろう。
 
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