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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
***
「社長のお戻りを記念して、乾~杯!!!」
まだ酸素呼吸で意識は戻っていないけれど、社長はここに居ると信じてあたし達は、コンビニから調達したノンアルコールを取り出して、乾杯する。
「ふぉー、このチータラ美味いっす!!」
「木島くん、ひとりで食べないの! 専務、沙紀さん食べて下さいね」
おにぎり、いなり寿司、珍味、スナック菓子、サラダ……あらゆるものを雑多に買い占めてきた。
……悲しいかな、朱羽の財布で。
――はっ、お財布もって来てなかった!
レジで気づく。
目に付くものをぽいぽいと買い物かごに入れていたそのお値段はかなりのもの。あたしは普段馬鹿買いするタイプではないというのに。
――すぐに飛び出したから、そうだろうと思ったよ。ここは俺のおごりだから。
――いや、だけどあたしが言い出しっぺなんだし。
――じゃあこうしよう。俺の前で幾ら泣いてもいいけど、泣いた以上に笑って見せて。結城さんの前でも。
――Your smiling face is irreplaceable treasure.
……こんな時に爽やかに、流暢な英語を使うなよ。
あたし特にリスニングは駄目なんだってば。なにを言っているのかさっぱり。
あまりにこの帰国子女が爽やかすぎて、それを言い出せずに曖昧に笑って病室に戻る。
――今度、英語を勉強しようね。
……わかっていないことに気づいていたか。
宴の中に結城がいない。
「うわ、結城起こすの忘れてた。誰か気づこうよ。あたし結城を起こしてくるね!」
帰ってきたら、結城はベッドで寝ていた。
大きい身体が小さい子供のように見えた。
結城がいなくても、あたしの家族は既にヒビが入り、壊れかけていた。結城が守をけしかけただけで、崩壊するほどに。
砂上に築かれた家族だった。
結城が、あたしがお父さんに犯される様を見ていたのは、親から子への愛情を信じたかったんだろう。どこかで子への愛情を取り戻すと。
あたしに自分の姿を重ねるほどに、結城は愛に飢えていたんだと思う。
常に傍にいない片親の寂しさが、彼を歪ませたのか。
あたしは、タコさんウィンナーを喜んだあの無邪気な結城を信じたい。
今の姿こそが、結城なんだと。