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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「はい。どうでしたか?」

「営業の進捗は結城から見せて貰っている。お前と朱羽がやじまを落としたのも知っている。結城と衣里が大きいところを落としたのも知っている。それを武器にしようとしていたんだが、古狸共はおかしなことを言い出してきた」

 あたしはごくりと唾を飲み込んだ。

「向島がシークレットムーンを買収に動いているらしい」

「え?」

「今のシークレットムーンの収益以上の金額を提示しているそうだ」

「じゃあシークレットムーンは、忍月ではなく向島が親会社になると?」

「まだ話が来た段階だ。向島の条件は、シークレットムーンの名前を取りやめ向島傘下のIT会社の中に入れるらしい」

「え? だったらシークレットムーンは……」

「事実上解体だ。シークレットムーンの社員が向島の新会社で働くという形だ」

「駄目です、そんなの!」

 あたしは声を荒げた。

「社長の作った会社をなくすわけにはいかない。駄目です、了承しないで下さい、専務!」

 千絵ちゃんが警告のように現れたのはこのことだったのか。

「俺もそんなことは大反対だ。だが副社長が乗り気で」

「それは専務と敵対しているという?」

「ああ。今月代さんがこうだろう? 月代さんはカリスマ的なところがあったから今まで俺も強く出れていたけれど、その月代さんが倒れている会社にメリットはないと言い出した」

「そんな……」

「朱羽もお前も結城も衣里も居る。木島だって三上だって、WEBの福島も工藤も渡瀬も笹島も。営業の田原も関口も安藤も木下も樋口も宇山も佐藤も本間も。総務の山本もまだ頑張ろうとしているのに」

 専務は全部覚えているのか。

 シークレットムーンに残った全社員のことを。

「かといって俺がシークレットムーンに移れば、あいつらを抑えることが出来なくなる。やはり俺は忍月で抑止力になってないといけない」

 専務の顔が疲れ切っている。

 食堂で女に囲まれて王様のように振る舞っていたあの軽薄さが嘘のように、このひとは誠実で真摯な男なのだと、素直に信じることができる。

「正直、社長がすぐに回復するのならまだ望みがある。だが本当にこのままでは……」

「つまり、上を納得させるだけのうちのトップが居ればいいということですか」
 
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