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いじっぱりなシークレットムーン
第8章 Blue Moon
 

「……ちょっと、考えさせて貰ってもいいですか」

 躊躇する結城の気持ちもわかる。

 これは遊びではない上に、結城はお父さんの会社を守りたいのだ。社長の地位になりたくて仕事をしていたわけではないのだ。

 しかも社長自ら任命したのならまだしも、あたしが言い始めたこと。

「ああ。よく考えろ。ただこれだけは言っておく」

 立ち上がった専務は結城の肩を、片手でポンと叩いた。

「月代さんは孤高のカリスマだった。ひとに頼らずなんとか出来てしまうその天才肌に、誰もが憧れた。俺も沙紀もだ。忍月にはいまだに月代さんを慕うものがいる」

 結城は重圧に苦しそうな顔をする。

「だけど、次期シークレットムーン社長は、別にそんなカリスマでなくてもいいと思わないか? お前は孤高の力がなくとも、共に走ろうとしてくれている仲間がいる。お前に技術力がなくても朱羽がいる。三上もいる。木島だってカバだって、お前の手足になれる。顧客だってお前が社長になることは異存はないだろう。月代さんと血が繋がらなくても、お前にはお前なりのひとを魅了する力はちゃんとある。あとはお前の自信と責任感だけだ」

「………」

「お前はなにがあっても、トップで会社を守らねばならない。今までは最高責任者である月代さんに甘えていただろうが、お前が責任をとらないといけない。その覚悟を背負え」

「………」

「お前がやってやろうと奮起しない限り、お前が社長になっても無駄に終わる。もしお前が社長をやるというのなら、俺も沙紀も協力は惜しまない。全力で支えてやろう。……それをよく考えて答えを出せ。出来れば来週の月曜日中。向島が動いている」

「……わかりました」

 固い顔をしているけれど、目の色が強さが違う。

 絶対結城はやってくれると思う。

 それだけの力はある。社員はすべてついていくだろう。

 だから結城。

 今精神的に辛いかもしれないけど、だけどあたしも支える。

 友として同僚として。


 だから、大好きな会社を守ろう。


「俺達は一旦先に帰るが、なにかあったらすぐに連絡寄越せ」


 専務と沙紀さんはあたし達に背を向け、歩き出す。


「それと結城。真剣に考える前に、その顔のラクガキ落とせ。笑いが……ぶははははは。社長ではねぇわ、その顔は」


 ……せっかく皆黙っていたのに。


 
 
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